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糖尿病教室

メタボリックシンドロームって何?

1.はじめに
2. メタボリックシンドロームという言葉ができるまで
3. 内臓脂肪型肥満って何?
4. どのような人がメタボリックシンドロームを持っているのでしょうか
5. 人類を救ってきた脂肪組織のさらに大切な役割
6. 日本人のメタボリックシンドロームの頻度は?
  心筋梗塞や脳卒中のリスクはどれほど高まるのか?
7. キーワードは生活習慣の見直し
8. おわりに


人類を救ってきた脂肪組織のさらに大切な役割

脂肪組織は脂肪を蓄えるだけではなく、私たちの体にとって大切な、特に糖脂質代謝やエネルギー代謝にとって大切なホルモンやサイトカイン(化学的情報伝達 物質)をつくり、分泌しています。脂肪をため込み、必要なときにそれを分解し、エネルギーを補充することは、大切な働きと考えられてきました。

しかし、好きなときに好きなものを、特に動物性脂肪をふんだんに食べることができる今は、脂肪組織の働きを実感することがあまりありません。実際、今は、 氷の海に乗客が投げ出されるタイタニック号のような事故がない限り、皮下脂肪のありがたさは実感できません。たしか、生き延びたのは女性の恋人でした。そ して、映画では男性の恋人は彼女のヌードを写生しましたね。この映画は皮下脂肪の働きを象徴的に暗示しています。

近年の肥満や糖尿病の分野の研究の進歩から、脂肪組織は長い間、私たち人類を飢餓から生き延びさせてきた機能の他に、もっと大切な役割を果たしていることがわかってきました。

脂肪組織は中性脂肪を合成、分解するだけでなく、血糖や中性脂肪の値や血圧を調節したり、体脂肪の量を監視したり、動脈硬化の火消し役を務める物質を産生・分泌しています<図5、図6>。

図5 近年、脂肪は内分泌臓器であることが明らかにされました。様々なホルモンやアディポカインを産生・分泌し、糖脂質代謝やエネルギー代謝を調整するとともに、動脈硬化の成り立ちにも関係しています 
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これらの物質を「アディポサイトカイン」とか「アディポカイン」と総称しており、善玉と悪玉のアディポカインがあります。善玉のアディポカインの代表であ る「アディポネクチン」はメタボリックシンドロームの成り立ちに深く関わっています。

「アディポネクチン」は骨格筋、肝臓に働いてインスリンの作用を高めたり、動脈硬化が進むのを抑制したりします。内臓脂肪型肥満の人では、血液の中のア ディポネクチンの濃度は明らかに低下しています。ですから、メタボリックシンドロームに見られるインスリン抵抗性や動脈硬化が進みやすい原因の一つは、 「アディポネクチン」が低いことに求められそうです。

また、糖尿病の薬の一つ「チアゾリジン誘導体」はインスリン抵抗性を改善して血糖を下げるとともに、「アディポネクチン」を高める働きをもっています。ですから、この薬は血糖を改善するばかりではなく、メタボリックシンドロームの病態を改善し、動脈硬化が進展することで起こってくる心筋梗塞や脳梗塞を予防する効果を期待できます。

また、先に内臓脂肪の蓄積には男性ホルモンやストレスの影響が大きいことを説明しましたが、ストレスで反応する代表的なホルモンである「グルココルチコイド」(副腎皮質ホルモンの一つで、体のストレスに対して防護的に働き、また、糖の蓄積と利用を調整します)は脂肪細胞の働きと深く関わっています。実は、脂肪細胞はこのホルモンを活性化する働きを持っていて、肥満になるとこの働きは高まり、内臓脂肪からたくさんの「グルココルチコイド」が門脈を通じて肝臓と全身に運ばれます。

「グルココルチコイド」は遺伝子の働きを活発にする作用を持っていて、大切なアディポサイトカインであるレプチンを上昇させたり、アディポネクチンを低下させたりしますから、この酵素の肥満に伴う活性化はもう一つのメタボリックシンドロームの成因を説明しています。興味深いことに、先に述べたチアゾリジン誘導体はこの酵素の遺伝子発現を抑制します。

ですから、肥満、内臓脂肪型肥満になると大事なアディポサイトカインの機能異常が生じて、インスリン抵抗性が生じ、動脈硬化が進みます。

<図6>に示したように、「アディポサイトカイン」にはメタボリックシンドロームにとって予防的に働くものと、促進的に働くものがあります。メタボリックシンドロームにならないため、またその状態を改善するためには、内臓脂肪の特徴を理解するとともに、いい方向にアディポサイトカインを動かす必要があります。

今後、善玉と悪玉の「アディポサイトカイン」をうまくコントロールできる薬の開発が期待されています。しかし、メタボリックシンドロームは今の文明社会だからこそ起こってくるのですから、現代人は日々の暮らしの中で工夫が必要になってきます。

図6 脂肪は悪玉と善玉のアディポカインを産生・分泌しています。悪玉のアディポカインが優勢になると、インスリン抵抗性がもたらされ、メタボリックシンドロームの病態が形作られます 
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