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糖尿病教室

『糖質制限食』 再考(補遺)

この文章は「糖尿病と食」と「糖質制限食 再考」の間に、自由に書いたものです。
不十分な箇所がありますが、上の二つの文章を補うものとして読んでいただければ幸いです。

1.はじめに
2.炭水化物(糖質)制限食の考えに出会う
3.栄養素の代謝を考える
4.インスリンの働きと炭水化物(糖質)制限食の関係について考える
5.糖質制限食とカロリー制限食 ― 大事な考えの相違
6.糖尿病の病態(糖尿病をきたす原因なり要因)を考えると、炭水化物(糖質)制限食は理にかなっています
7.炭水化物(糖質)制限食の考えに落とし穴はあるでしょうか
8.炭水化物(糖質)制限食の要点は糖の代謝から脂肪酸の代謝への変換です
9.糖質制限食と食の文明
10.糖質制限食のエビデンス
11.糖尿病食としての地中海食
12.ある糖尿病専門医の文章に出会う
13.オーダーメード糖尿病食
14,おわりに

糖質制限食と食の文明

炭水化物(糖質)制限食と食文化、大きく言えば文明の生態史観との関係
日本人の主食は、ご飯、うどん 餅 そして、特に戦後、パンなどの炭水化物であり、
主食がないとお腹がいっぱいにならないと言う人はたくさんおられます。実際、患者さんを前にして、糖尿病の食事を説明する段になると、何度も遭遇します。そこから、本当に、日本人は特に、糖尿病学会が薦める糖尿病食 炭水化物を55から60%にする食事を、歴史的に摂って来たのだろうか、 そして、いわゆる洋食 現在のファストフードを含めた、欧米食の混在がどのように日本人の食生活に変化をもたらしているのか、また、炭水化物(糖質)制限食を薦めることに勢いがあまって、米食の基盤にある文明まで、軽視しているのではないかと言う疑問があります。

このような疑問に回答を与えてくれる本があります。私は偶々、本屋で、手にしたのですが、大切な出会いでした。それは安田嘉憲先生の書かれた「稲作漁労文明―長江文明から弥生文明―」(雄山閣 2009年)です。安田先生は「稲作漁撈文明」は日本と東アジアに起こり、森と川と海の循環を基本に自然の調和を維持し、それを大切にするこころを持った文明である。それは、ユーラシア、ギリシャからイングランドに広がる「畑作牧畜文明」と対比され、後者の歴史的優位性が今後の環境文明のあり方に、有害な影響を与えることを警鐘し、前者の文明を大切に温存し伝えることの重要性を説いた本です。
現在では、米食が切り離され、その基盤にある稲作そしてそれとカップルした漁撈の文明の内容までなかなか想像できません。さらに、戦後、「畑作牧畜文明」がもたらした食文化、-肉、牛乳、パン、バター、チーズーが戦後急速に混在したためにますます、
それが見えにくくなっています。

安田先生の書かれた本は、私たち糖尿病と食を考えるものにとって大きなヒントを与えてくれます。炭水化物は、農耕の開始、発展に由来します。農耕は「稲作」と「麦作」に分かれますが、それをもたらした文明と思想は大きく変わると書かれています。森と川と土地をどのように利用するかによって、実際の文明形態は、「稲作漁労文明」と「畑作牧畜文明」に大別されます。世界史地図からは、前者は    後者は     にその発祥の地有し、「稲作漁労文明」は安田先生がたが発掘、調査された、「長江文明」に由来し、それは日本の「縄文文明」に大きな影響を与えたことを強調されています。この文明は
森と川と海の循環を維持し、稲作と漁労を営み、生命の循環を信仰する文明であると説明されています。生命を生み、育むのは女性ですから、女性中心の社会です。食の観点から見ると、広葉樹林が森に生育し、冬に落葉し、その堆肥が川に流れ、海に運ばれ、プランクトンの栄養になり、魚が大きく育つというイメージでしょうか。一方、「畑作牧畜文明」は、麦を栽培し、牧牛などを飼育しますが、その動物たちは、緑を食べ、果てには、森を破壊します。そしてその文明の食の豊かさをもたらしたものは、果樹栽培です。オリーブがその最たる代表ですが、その油を利用することで、油であげる調理法が発明され、食欲を満たす、食が出来上がってきたと説明されています。当然、それと対比されるのが、縄文文明の土器です。食材を蒸し、煮ることができたのです。
安田先生の本質を突いた文章を引用します。 「安田著 287-288頁」

また、日本での稲作の伝播についても、教えられました。約3500年前の気候寒冷期に、「長江文明」を担った人々が、北からの牧畜民の圧力を受け、ボートピープルとなった人々が南九州にたどり着き、稲作を伝えたと書かれています。従来言われていた、朝鮮半島を経由して稲作がつたえられたとする説は、あまり根拠がないようです。また、稲作は急速に日本中に広まったのではなく、縄文文明の「半栽培漁労文明」が保たれたまま、時間をかけてひろまり、弥生文明は縄文文明と連続していると言われています。上で述べた、森と川と海の自然の循環を基本にしていると言う意味で。
このような食の文明を考えると、現在の日本人の食は、日本に従来からある食に加えて、欧米、中国、東南アジアの食が混在していますが、そのルーツが解り、頭が整理できます。

それ以後、第二次世界大戦後間もない頃まで、私たちの食は炭水化物が主で、タンパク質は魚や大豆からとり、それも多くはありませんでした。脂肪にいたっては摂取してきた量はすくないものでした。脂肪とくに動物性脂肪を多く摂るようになったのは、この30年ぐらい前からです。その意味では、この炭水化物制限食は私たちのいままでの食生活とは随分と違います。(しかし、この食生活は私たちの祖先が私たちの風土にマッチしたように工夫して偶々発明したものです。歴史的には不可避であったと思いますが、現在は、多くの国の人が歴史をかけて作ってきた食が沢山あるのですから、それを活用しない手はありません。糖尿病の方の食事療法は、多くの食のあり方を土台に工夫すればいいのであって、その工夫がこの炭水化物制限食だと考えればいいでしょう。
この食事療法は、ご飯やうどんやパンなどの主食はできるだけ、極力控えて、「腹七分目」が基本です。脂肪や糖を甘くて美味しく食べたいと思う心は脳に備わっていることが解っていますから、油断をしないで下さい。


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