head_img_slim

ご予約・お問い合わせは下記よりお願いします
TEL. 06-6310-3025
休診日:木曜午後・土曜午後・日曜・祝日

HOME > 糖尿病教室> 『糖質制限食』 再考(補遺)

糖尿病教室

『糖質制限食』 再考(補遺)

この文章は「糖尿病と食」と「糖質制限食 再考」の間に、自由に書いたものです。
不十分な箇所がありますが、上の二つの文章を補うものとして読んでいただければ幸いです。

1.はじめに
2.炭水化物(糖質)制限食の考えに出会う
3.栄養素の代謝を考える
4.インスリンの働きと炭水化物(糖質)制限食の関係について考える
5.糖質制限食とカロリー制限食 ― 大事な考えの相違
6.糖尿病の病態(糖尿病をきたす原因なり要因)を考えると、炭水化物(糖質)制限食は理にかなっています
7.炭水化物(糖質)制限食の考えに落とし穴はあるでしょうか
8.炭水化物(糖質)制限食の要点は糖の代謝から脂肪酸の代謝への変換です
9.糖質制限食と食の文明
10.糖質制限食のエビデンス
11.糖尿病食としての地中海食
12.ある糖尿病専門医の文章に出会う
13.オーダーメード糖尿病食
14,おわりに

ある糖尿病専門医の文章に出会う

ある医学情報の雑誌を見ていて、以下のような文章に出会いました。食後代謝異常が血管障害と関連するという記事の中で、「では、食後高血糖、食後TG血症と言った、
食後代謝異常の管理・治療をどのように行うべきだろうか。食後血糖値の上昇を抑えるという視点に立てば、中には「糖の摂取を抑えて脂質中心の食事を摂る」との発想にいたるひともいるかもしれない。しかし、このような「低インスリンダイエット」による方法は、痩身への有効性がしめされているものの、血管への影響については非常に問題があると思われる。
そもそも、インスリン分泌の引き金は血糖の上昇であり、分泌を促進するためには、
炭水化物の摂取は不可欠である。加えて、インスリンは血糖低下のみならず、脂質代謝にも重要な役割を果たしている。
従って、2型糖尿病患者の食事療法に関しては、やはり日本糖尿病学会が推奨する「炭水化物60%、脂質25%、たんぱく質15%」の栄養バランスが望ましい。加えて、糖質の種類にも目を向け、白米ではなく玄米や五穀米を選ぶなど、複合糖質や血糖値が上昇しにくい糖質の摂取に心がけると良い。また、血中の遊離脂肪酸の種類を買えることで、血管内皮への影響も変わる可能性があるため、摂取する脂質の種類を肉類から魚類やオリーブオイル主体の「地中海食」に変えることも考慮に値する。伝統的な「和食」や、イタリア発祥で注目されている「スローフード」(何のことか首をかしげますが。)も理にかなった方法とも言えよう。さらに、血糖値の上昇を緩やかにするためには、食事はできるだけゆっくり摂るのがいいだろう。」
ここには、糖尿病専門医や内科医がなんとなく納得するような内容が含まれています。しかし、いくつかの混乱があるように思われます。ひとつは、これはいままで述べてきたように、議論の根幹にかかわることですが、ここでも、糖尿病の病態と糖尿病でないいわば正常の状態との混同があります。そして、炭水化物(糖質)制限食や地中海食についての理解、認識不足です。
たしかに、インスリンの分泌を促すのは、炭水化物に由来する糖ですが、糖尿病の方にはインスリン分泌障害がありますから、それに対応するには炭水化物を制限するほうがいいのではないでしょうか。また、たしかにインスリンは脂質代謝に対しても、役割をもっていますが、食後の高い中性脂肪に対してでしょうか。食後高血糖と食後TG血症を同列に考えていいのでしょうか。食事療法についても理解不足です。地中海食はそれなりに高脂肪、高タンパクですから、栄養素の構成は日本糖尿病学会が言う比率にはなりません。
また、「炭水化物(糖質)制限食」はかならずしも「低インスリンダイエット」と同じではありません。
また、一般医家向けに外来診療を教えるテキストの中にも、糖尿病の食事療法は、摂取エネルギーの設定、各栄養素の配分、特に炭水化物の調整が重要であり、摂取エネルギーの55%~60%を炭水化物で、たんぱく質は体重あたり1~1.2gとする。(脂肪の望ましい摂取量は触れられていません)そして、三食をできるだけ規則正しい時間帯にとること、間食を控えること、よく噛んでゆっくり食べることが大事であると書かれています。
この二つの糖尿病専門医が書いた、食事療法は漠然と医師のなかでは了解されていることのようですが、いざ、踏み込んで考えている人にとっては物足りないし、ましては患者さんにとってはなおのこと、どうするのが一番血糖値をよくするためにはいいのかは、皆目わからないでしょう。これが現状なのだと思います。私もつい最近まで、炭水化物(糖質)制限食を、糖尿病の病態を踏まえて、また、代謝の基礎を踏まえて、糖尿病の食事療法に適当なのか、これがより良いことなのかを考えることがなければ、似たような考えでした。むしろ、もっといけないのは、栄養士に任せきりであったことでしょう。
このように、糖尿病の食事療法の選択肢として、「炭水化物(糖質)制限食」や「地中海食」が注目されてくると、「和食」の役割も考えてみたくなります。林望さんの「旬采膳語」という本は、和食の日本の文学、歴史を踏まえた美味礼賛で、文章の艶もおいしいものです。その、あとがきで、あらためて和食が愛でられています。
「 」純な和食はたしかにこのようだと思います。旬の日本の文字通り多彩な食材を用いた、達者な料理人がこれは玄人であれ素人であれ、問いませんが、作った料理なのです。では、脂肪は何なのでしょうと問いたくなります。林さんのいわれる、「和食」は精進料理に近いものなのでしょう。棚橋俊夫さんのいわれる「野菜の力」です。本当に、日本人の食には、脂肪は確たる位置はしめていないのでしょうか。


ページトップに戻る